11章  サブドミナントマイナーコード(SDM)
 用語的にも舌を噛みそうなものが増えていきます。サブドミ ナントマイナーコード(以下SDM)はメジャーキーのサブド ミナントIVの3度の音を半音下げてIVmの形にしたものです。 なお、マイナーキーのサブドミナントIVmを同主調のメジャー キーに持って来るわけですから、この技はメジャーキーにしか 使えません。  SDMはサブドミナントの後に置かれることが多く、M3rd→ m3rdという内声の半音の動きが特徴づけられます。  効用としては、メジャーな中のマイナー感、これが「グッと くる」、あるいは人によっては「初恋のようなせつなさ」とい ったイメージを喚起させるようです。
SDMの使用法
 サウンドの性格上、バラード系の曲で激発するSDMですが、 これを使ったコード進行としては定型的なパターンが確立され ています。特に、下の用例で紹介する使い方は、泣きの王道パ ターンとして猛威を振るいます。ぜひ覚えておきたいものです。 譜例:SDM使用例1     ベース進行の2回繰り返しパターンで、2度目に使われるS DMがアクセントになります。繰り返し2回目に変化をつけて みる、という小技です。V7sus4はドミナント代理。次章にて説 明します。 ● 音で確認=非対応メニューです 譜例:SDM使用例2     サブドミナントからSDMへ、そこからベース半音下降パタ ーン。bIII6がクセモノですが、これも次章でやるノンダイア トニックなドミナント代理コードのひとつ。とりあえず理解は 保留しておいて、パターンとしてアタマに入れておいてくださ い。IIm→V7sus4を経てIIImへ偽終止のあとのI7は、IV(ここ ではF)へ進むためのセカンダリードミナントでしたね。  音サンプルはちょっとわざとらしいですか? ● 音で確認=非対応メニューです
SDMの代理コード
 さて、SDMであるIVmにも、これとコード構成の似たものを 代理コードとして適用することができます。こちらもバリバリ のノンダイアトニックコードが山盛りで、トーナリティを広げ る大きなポイントになります。 譜例:SDMの代理コード     これらの代理コードに共通するのがb6thの音程(Ab音)。 そして、SDM代理コードどうしの連結もよく見られますが、 特にIVmM7→IVm7の進行は定番です。また、bVI→bII→I、IVm →bVII7→Iといった4度含みの進行も多用されています。
SDMをツー・ファイブ・ワンに
 これらを踏まえた上で、代理を含むSDMに対し、さらにそ こへ向かってアプローチするようなツー・ファイブ・ワンの形 を作ってやれば、もう元のキーのイメージはかなり薄れ、ほと んど転調に近い感覚になってきます。ここまで来ると制御する のが相当難しく、もう応用編の域です。 譜例:SDMへのツー・ファイブ・ワン進行    ● 音で確認=非対応メニューです  明らかに「やりすぎ」という例。元のキーどころか、メジャ ーキーにさえ聴こえません。まあ、このぐらいの可能性がSD Mにはあるというわけで、参考までに。
 メジャー曲にちょっとしたマイナー感を…という目的で用い られるSDM。実際、使うと効果も高いわけですが、反面、コ ード側からの「操作」がむき出しになるため、「あざとい」と か「作為的」とか「泣きの押し売り」などと嫌う人もいるよう です。僕はこのコードを多用するので耳がイタいですが、結局 は構わず使っています。どうしても必要と思えるし、そもそも 曲を盛り上げたりメロディに表情をつけるのがコードの役割の ひとつです。これを読んだ皆さんがどう感じるか、ちょっと興 味のあるところですが。
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